大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2102号 判決

ところで被控訴人は、かりに控訴人主張の贈与があつたとしても書面によらないものであるから、本訴において贈与の意思表示を取消すと主張する。右各贈与が書面によらないことは当事者間に争がないが、控訴人は、すでに履行は終つていると主張するので検討する。〔証拠〕によれば、本件第一の土地は昭和七年ごろには斉藤緑ほか二、三人の借地人に全体の約半分ばかりが賃貸され、その余は空地となつていて吉次郎が野菜などを裁培していたこと、第二の土地は昭和二八年ごろ古長小駒ほか三、四人の借地人にその大半が賃貸されていたこと、これら借地人たちはその後変更もあり人数の増減もあつたが、借地人からの地代の取立受領は、吉次郎と控訴人とが、本件以外の吉次郎の貸地の地代と同様に、共同でその衝にあたり、取立てた金銭は吉次郎一家の収入として生活費等の支払にあてていたこと、控訴人は借地人中二、三の者には、本件土地は自分が貰つたものであることを告げており、また前記空地の野菜裁培には主力となつて従事していたことが認められる。そして、控訴人が二六年間余り吉次郎と同居していたことはすでに述べたとおりであり、〔証拠〕によれば、控訴人は右期間を通じ吉次郎および同人と先妻の子女四人の面倒をみながら家事をとりしきり、妻ならびに母親として一同から頼りにされていたことが認められるのであつて、その間特段のあやまちのあつた事実は認めることができない。また吉次郎が本件土地の贈与を撤回したとみられるような言動に出た事実も、これを認めることができない。かような事実関係からすれば、本件第一、第二の土地の引渡は、おそくとも吉次郎死亡時にはすでに終つていたと認めるのを相当とする。吉次郎が関係借地人全員に、控訴人への所有権移転を告げたことや、吉次郎から控訴人に贈与土地の権利証が引渡されたことは、いずれも認められないけれども、同居の内縁の夫婦間の権利移転を逐一他人に告げるということはむしろ普通でないし、(乙第三号証の宛名が吉次郎になつていることも、この見地から了解される。)相互の信頼が持続する限り登記関係書類等の交付はないことも十分ありうることであるから、右諸事実が認められないことは決して前記認定の妨げとなるものではない。したがつて、被控訴人の取消の意思表示はその効果を生じない。さらに、別の理由からも取消の効果がないと解すべきこと左のとおりである。すなわち、すでに認定したように、控訴人は二六年余り吉次郎の内縁の妻として同居し、家事および育児につくし、十分に吉次郎の信頼を得ていたのであつて、第二の土地の贈与はそのことも考慮されての上であることは推察に難くなく、第一の土地の贈与は、当初の吉次郎の意向としては、控訴人が短時日の間に不縁となるようなことがあれば撤回することを考えていたかもしれないけれども、その心配も二六年間の功績で霧消した筈であるから、要するに吉次郎は、死亡時まで本件贈与を取消す意図はなかつたことが明らかである。かような場合被控訴人が吉次郎の相続人たる故をもつて取消の意思表示をすることは被相続人の意に反することは疑がなく、吉次郎の歿後の特別の事情、たとえば控訴人に著しい忘恩の所行があつたとか、被控訴人の生活が困窮するに至つたとかが認められない本件においては、被控訴人からする贈与の取消は信義に反し、その効果を生じないといわなければならない。

(近藤 田嶋 吉江)

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